【家族支援のケース】子どもの自立後「私には何もない」と眠れなくなった50代Uさん
※個人が特定されないよう、年齢・家族構成・経過など一部を変更してご紹介しています。
後生川うつ専門研究所の後生川礼子です。
今回ご紹介するのは、東京在住、50代女性のUさんです。
きっかけの一つは、子どもの自立でした。
長年、母親として家族を支え、子育てを中心に生活してきたUさん。
子どもが無事に巣立った。本来なら、喜ばしい出来事ですね。
ところが、その後から少しずつ眠れなくなっていかれました。寝不足の頭では台所へ立つことが出来ず、買い物へいってもお金の計算が出来ない程に…
自損事故を起こしてしまった事を機に、ご主人と長女さんから私にご相談が入りました。
子どもが巣立ったあと、「私には何が残っているのだろう」
それまでのUさんには、母親としてやることがありました。
ふつうに食事をつくる。
子どもの予定を気にする。
家族の生活を整える。
家族から必要とされる自分がありました。
何かあれば、頼られる。
誰かのために毎日動く。
そんな生活を長年続けてきました。ところが子どもが自立すると、その役割が突然、小さくなったとのこと…。
自分の時間はできたはずなのに、心は自由になりませんでした。
むしろ、「私はこれから何をしたらいいのだろう」という空白が大きくなっていきました。
そして少しずつ、
「私には何もない」
「私は何の役にも立っていない」
という感覚が強くなっていかれました。それぞれの寝室に入り、夜になると考え込む。
なぜか、眠れない。時計のカチカチカチカチ…無性に刺さる音。
途中何回も目を覚まし、朝陽が刺さってつらいし、日中も気持ちが晴れない。
Uさんの抑うつ状態は、そんな些細なところから始まっていました。
課題は「母親としての自立」ではありませんでした
Uさんは、母親としては十分すぎるほど役割を果たしてきた方。
だからこそ、支援の中で見えてきた課題は別のところにありました。
それは、ひとりの女性として。ひとりの人間として。そして、社会を構成する一人として。
これから自分自身の人生をどう生きていくのか、という課題でした。
母親という役割を失ったのではありません。
子育てという大きな役割が一区切りしたときに、それまで後回しになっていた「私自身の人生」が目の前に現れたのです。
働く女性を見ると、なぜか心がざわつく
Uさんには、もう一つ特徴的な変化がありました。
外で働いている同年代の女性を見ると、なぜか心がざわつくようになったのです。
仕事を持っている女性。社会の中で役割を持っている女性。生き生きと働いているように見える女性。
そうした人を見ると、素直に「素敵だな」と思えない。
むしろ、少しイライラする。
見たくない。
羨ましい。
そんな感情が出てきました。
ご本人も、最初はその理由が分かっていませんでした。
でも丁寧に整理していくと、その感情の奥には、
「私は何もしていない」
「あの人たちには社会の中に居場所がある。でも私にはない」
という自己評価がありました。つまり、働く女性への嫉妬そのものが問題だったのではありません。
その感情は、Uさん自身が本当は社会とつながりたいと思っていることを知らせるサインでもあったのです。
その本人の気持ちを、ご家族は知る由もなかったといいます。
「嫉妬する自分は嫌な人間」ではありません
こうした感情を持つと、多くの方は自分を責めますね。
「どうして素直に人を応援できないんだろう」
「私は嫌な人間になった」
「性格まで悪くなった」
でも、嫉妬や羨望という感情だけを切り取って、自分を責める必要はありません。
大切なのは、「私は、あの人の何を羨ましいと思っているのか」を見ることです。
そこを整理すると、嫉妬の奥にある、自分自身が本当に欲しかったものが見えてくることがあります。
Uさんの場合、「社会とのつながり」が失われていました
Uさんが必要としていたのは、単に気晴らしをすることではありませんでした。
Uさんが求めていたのは、もっと根本的な、「私は社会の中で何者なのか」という感覚。
一人の人間として、社会との接点をもう一度つくる必要があったのですが、主治医は「薬を飲んで」しか言わなかったとのこと。
薬には「自分の本心に気づく効能」なんかないのです。
回復の目標を「元のお母さんに戻る」にしなかった
私は、Uさんを以前の状態に戻すことだけを目標にはしませんでした。
子どもが巣立つ前と、今では人生のステージが違います。
以前と同じ生活には戻れません。
そして、戻る必要もありません。
これからは、母親としてではなく、Uさん自身として、どんな人生をつくるのか。そこを考える必要がありました。
いきなり「働きましょう」ではありません
社会とのつながりが必要だからといって、すぐに就職活動をすればいいわけでもありません。
眠れていないし、気力が落ちている。

この底辺の基本から。
どう生きるかが少し見えてくると、一番下の「消えたい」気持ちも薄まったそうです。
死のうと思っていたなんて、ご家族はご存じではありませんでした(回復したのちに、笑い話になりました^_^)
回復とは、「元に戻る」だけではない
私は、回復とは、病気になる前の生活に戻ることだけではないと考えています。
Uさんも最初は「元に戻りたい」と言っておられましたが、そこはハッキリとお伝えしました。
ご家族からのご相談をお受けしています
ご本人が相談を嫌がっている場合でも、ご家族だけでご相談いただけます。
本人への声のかけ方だけではなく、社会資源なども含めて、今のご家庭に必要なことを整理していきます。
「本人をどう動かせばいいでしょうか」
ではなく、「私たち家族は、今どう関わればいいでしょうか」から一緒に考えていきますね^_^
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